そこに在る君へ


中編


ハア ハア


犬飼は、河川敷に向かってただ走った。
河川敷。それは十二支高校近くにある川のことに違いなかった。


あそこで、犬飼は天国に告白したのだ。


それを知っているのは犬飼と…そして天国だけだった。



(勝手においていきやがって…絶対殴ってやる。)

犬飼は息を切らしながら思った。
勝手に死んで、勝手にいなくなって。
こんな潰れそうな思いを1年間もさせて。


恨み言は山のようにある。


全部全部、言ってやる。



そう思っているとようやく河川敷が見えた。



そこに。

1年前失った姿があった。





「…!」


間違い…なかった。



そこにいた。



あいつが。






「バカ猿!!」



搾り出すような犬飼の声に、その姿は振り向いた。

1年前、そのままの笑顔。
大好きだと伝えてくれた瞳…。



犬飼は彼の元に転がるように降りていった。
彼も犬飼の所に走りよって。




「…っ!!」

無言で抱きしめあった。

強く強く抱きしめた。


言いたいことは山のようにあったはずなのに。
言葉なんて出てこなかった。

ただ逢いたかった。逢えて息が詰まりそうなほどに嬉しかった。


この確かな感触をただ感じていたくて。ただ抱きしめた。



「…っ…う…っ…。」

「泣いてんのか?」


天国を抱きしめながら、犬飼は激しい感情に涙をこぼしていた。
天国を失って、もう会えなくて辛くて苦しくて…寂しくて。
1年間の思いと、今こうして会えた喜びが犬飼の中で渦となっていた。



「なあ?」


天国はあの頃のように呑気な声で、犬飼の背をなだめるように叩く。


そんな様子が、無性に腹立たしくなって。そして同時にたまらなくいとおしくなって。

少し身体を離すと、天国の顔を見た。
変わらない表情豊かな顔。
まっすぐな瞳、よく動く唇…。

犬飼は泣き崩れたみっともない、怒りや切なさや愛おしさで歪んで…涙でぐしゃぐしゃの顔のまま。
天国の唇を噛み付くように奪った。


「ん…!!い…ぬ…っ…。」

「…っ。」


何度も角度を変えては天国の唇を吸った。
逃げる舌を追って深く絡ませて。また吸って。

激しいキスには犬飼の想いをすべて込められていた。


それが分かっていたのか。
天国は驚きながらも犬飼の身体を抱き寄せキスを受け入れた。


長く長く二人は抱きしめあった。



##########


日が暮れる頃、ようやく落ち着いたのか犬飼は天国の身体を離した。



「…なんで…お前…。」
「…やっと聞いたな〜ガングロ犬。
 つかお前こんなのどこで覚えてきたんだよ。俺の生前は超が付くほどヘタレだったくせに。」

天国は苦笑しながら言った。

「ちゃかすんじゃねーよ。
 …生前…ってこたやっぱ死んでるんだよな…。」

「ああ。悪いけど実は生きてましたってなオチじゃねえよ。」

「…だよな。」

その言葉に、犬飼は新たな喪失感を感じる。
原因なんて分からないが、今こいつはここにいる。

だけど、また離れていく…。
それが間違いないこと。
分かっていても…それでも。


「んな顔すんなよ。何でまた戻ってきたのかはわかんねえけどな…。
 お前にはちゃんと伝えたいことがあったから、丁度良かった。」


「…なんだよ?」



「笑うなよ、オレ的には死んでも言いたくねえほど恥ずかしい台詞だからな。
 だけど死んだから言っとく。」


「…どういう理屈だよ、そりゃ。」

犬飼は天国らしい言い方に苦笑しながら、腰を下ろした。


「とりあえず…聞いてやるから、言え。」


「…お前の「とりあえず」がまた聞けるなんてな。」
くっ、と天国は笑って。


座った犬飼に近づいた。

犬飼は密かに、その足元に影が無いのに気づく。


ああ、やっぱりこいつはいないんだな…。



「んじゃ、言うな。オレは…。」



天国は華のように笑って。



言った。



「お前に会えて、お前と恋人になれて、一緒に野球が出来て、すげー幸せだった。」



こんな笑顔、見たことがなかった。




                                    To be Continued…

変なとこできりましたが、次で終わりです!
泣ける話を目指したかったんですが…どうやら無理っぽいですね…。(^^;)

トリオさま、お待たせし続けて申し訳ないんですがもう少々お待ちくださいませ…。
本当にすみません!



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